
ポンプの揚程計算と選定|密閉回路・開放回路の計算例とNPSH
ポンプの必要流量と揚程を、開放回路・密閉回路の違いから解説。熱量から流量を求める例、最不利経路の損失集計、軸動力の計算、Q-H曲線による選定手順を示し、NPSH・静圧・機器耐圧と変流量制御の確認事項まで整理します。
ポンプは、必要な流量を、配管や機器の抵抗に打ち勝って送るために選定します。冷温水の密閉循環回路では、建物の高さをそのまま循環揚程に加えません。一方、受水槽から高置水槽へ送る開放回路では、水面の高低差も必要です。まず回路を区別し、流量、最不利経路の損失、運転点、吸込条件の順に確認しましょう。
揚程とは|圧力を液柱の高さで表す
揚程は、ポンプが水に与えるエネルギーを高さの単位mで表したものです。水を高い場所へ上げるだけでなく、配管抵抗を補い、末端に必要な圧力を確保するためにも使われます。水の場合、圧力差約9.8kPaが揚程1mに相当します。高低差に相当する実揚程と、配管・機器による損失を区別すると計算しやすくなります。
一般には、必要なポンプ揚程を「基準とする入口・出口の高低差+圧力水頭差+速度水頭差+経路の損失」で考えます。両端が大気開放の大きな水槽なら、水面の圧力差と速度水頭差を省略できます。給水栓に必要圧力がある場合は、その条件を別途加えます。条件付きの計算式はGrundfosの全揚程・吸込揚程資料も参考になります。
開放回路と密閉回路で高さの扱いが変わる
回路 | 水の流れ | 揚程計算の要点 |
|---|---|---|
水槽間の揚水 | 低い水槽→ポンプ→高い水槽 | 水面の高低差と配管損失を加算。最低吸込水位・最高吐出水位も確認 |
密閉冷温水循環 | ポンプ→熱源→上階のコイル→戻り管→ポンプ | 上りと下りの高低差が一周で相殺。必要循環揚程は経路の圧力損失で決める |
開放冷却塔の冷却水 | 塔の水槽→ポンプ→冷凍機→塔の散水部→水槽 | 水槽水面から散水部までの高低差、必要散水圧、配管・機器抵抗などを系統条件に沿って計算 |
密閉回路で高低差を循環揚程に足さないことと、建物の高さを無視してよいことは別です。充水・加圧条件、最高点の圧力、ポンプ吸込圧力、機器の最高使用圧力には高さが影響します。膨張タンクの位置と設定圧力も含めて確認します。循環と静圧の考え方はGrundfosの循環ポンプ資料で整理されています。
冷却塔は「密閉式」という機器名称だけでポンプ系統を判定せず、どの水回路を扱うか確認してください。水回路の違いは冷却塔の開放式・密閉式と能力計算で解説しています。
必要流量を熱量と温度差から計算する
冷温水流量は、搬送する熱量と往還温度差から求めます。密度を1,000kg/m³、比熱を4.186kJ/(kg・K)とした水の概算では、次式を使えます。グリコール水溶液などは密度・比熱・粘度が異なるため、同じ係数を無条件に使いません。
流量Q[m³/h]≒熱量[kW]÷(1.163×往還温度差[K])
仮に熱量300kW、温度差5Kなら、Q=300÷(1.163×5)≒51.6m³/hです。同じ熱量で温度差を大きくできれば流量を減らせますが、コイル能力、制御弁、熱源機の最低流量・許容温度差が成立するかを確認します。必要能力と台数の検討はチラーの選定と合わせて進めましょう。
最不利経路の損失を集計して全揚程を求める
配管の直管摩擦、継手・弁類、熱源や熱交換器などの圧力損失を、同じ単位にそろえて集計します。複数のコイルが並列につながる場合は、すべての枝の損失を合計せず、必要流量を流したときに最も大きな揚程を要する経路を調べます。共通配管は合流後の流量、枝管は枝の流量で計算します。
密閉回路の計算例
項目 | 仮定した損失揚程 | 確認する資料 |
|---|---|---|
最不利経路の直管 | 6m | 管径・長さ・粗さ・各区間流量からの計算 |
継手・弁類 | 2m | 局部抵抗係数やメーカー流量特性 |
熱源・コイル等の機器 | 8m | 設計流量に対応する機器の圧力損失 |
必要循環揚程 | 合計16m | 単位の統一、計上漏れ・二重計上を確認 |
この仮定では、流量約51.6m³/h・揚程16mが選定の出発点です。建物高さが20mあっても、密閉循環だからという条件のもとでは、16mに20mを再加算しません。余裕は機器仕様の変動や汚れなどの理由を明示し、各項目へ重複して上乗せしないことが大切です。管径と圧力損失の考え方は冷温水配管の設計を参照してください。
軸動力と入力電力を区別する
ポンプの軸動力は、P[kW]=ρgQH÷(1,000ηp)で概算できます。この式のQはm³/sです。上の流量を3,600で除し、揚程16m、ポンプ効率ηp=0.70と仮定すると、軸動力は約3.2kWです。モーター・インバータの損失を含む入力電力は別に求めます。機器資料がポンプ単体の効率か、電動機を含む総合効率かも確認しましょう。
Q-H曲線と運転点で機種を絞る
実際の運転点は、ポンプの流量Qと揚程Hの特性曲線と、配管系の抵抗曲線の交点で決まります。カタログの最大流量と最大揚程を同時に出せるわけではありません。性能曲線の読み方はGrundfosのポンプ曲線解説が参考になります。
- 設計流量と必要揚程を選定図に置き、対応する回転数・羽根車径・機種を探す。
- 設計点が効率のよい領域とメーカーの許容運転範囲に入るか確認する。
- 最大・最小負荷、弁開閉、単独・並列運転ごとに運転点を確認する。
- 軸動力、モーター容量、締切時圧力、最低連続流量、NPSHを確認する。
並列運転は同じ揚程で流量を足し、直列運転は同じ流量で揚程を足して合成曲線を作ります。ただし系統との交点が変わるので、2台並列なら実流量が必ず2倍になるわけではありません。
NPSHと静圧・耐圧はそれぞれ確認する
NPSHは吸込側で液体が気化しにくい圧力余裕を、液柱高さで表す指標です。系統側で利用できるNPSHAと、ポンプが要求するNPSHRを区別し、メーカー指定の余裕を確保します。単にNPSHAがカタログ値をわずかに上回れば、あらゆる条件で損傷が起きないと判断してはいけません。
確認事項 | 設計への反映 |
|---|---|
吸込水面の絶対圧・設置標高 | ゲージ圧と絶対圧を混同しない |
最低水位・吸込高さ・配管損失 | 最も厳しい吸込条件で確認する |
液温と飽和蒸気圧 | 温水条件を常温水の値で代用しない |
流量・回転数に対応するNPSHR | 設計点だけでなく想定運転範囲で照合する |
機器耐圧・許容押込圧力 | 静圧に運転時・締切時の圧力上昇を考慮する |
NPSHの定義はKSBの技術解説、実機の吸込条件はメーカー取扱説明書で確認できます。吸込配管は抵抗・空気溜まりを抑え、点検時にストレーナの詰まりも確認できる構成にします。
例えば大きな水槽から吸い込む単純な系統では、NPSHAは「水面の絶対圧力水頭+水面からポンプ基準位置までの高さ−吸込経路の損失−液体の飽和蒸気圧水頭」で整理できます。水面がポンプより低ければ、高さは負の値です。基準位置と圧力の単位をそろえ、閉鎖タンクなら水面に作用する圧力も含めます。吸込可能高さを固定値だけで判断せず、液温・水位が変わる条件ごとに検討しましょう。
変流量制御と選定条件書のまとめ
同一ポンプの相似な運転では、流量は回転数、揚程は回転数の2乗、軸動力は回転数の3乗におおむね比例します。ただし同等の効率などを仮定した近似です。実際の節電量は系統の静揚程、差圧設定、機器の最低流量、モーター効率にも左右されます。根拠はKSBの相似則を確認してください。
選定条件書には、液質・液温、最大最小流量、損失集計、回路図、加圧条件、NPSH、運転範囲、制御方式を残します。停止時の圧力変動は定常状態の揚程計算とは別の検討です。逆止弁や停電時の確認はウォーターハンマーの原因と対策につなげると、運転中から停止時まで一貫して計画できます。